UXについて学ぶ連載の第二回。
前回の記事では、UXの基本的な概念と、UIやCXなど、まぎらわしい用語との違いについて解説しました。
今回は、UX設計が求められるようになってきた背景と、「売れるチームづくり」にどう関わっていくのかについて取り上げていきます。
この記事を読むと……
●UXが重視されるようになった背景がわかる
●UXデザインにチームとして取り組んでいく意味がわかる
もくじ
UXデザインが必要とされるようになった理由
UX=ユーザーが商品を通して得られるすべての体験
- 予期的UX
商品を利用する前のUX。広告や商品のWebサイト、口コミの情報などから得られる体験を指す。 - 一時的UX
実際に商品を使用しているときのUX。使いやすさや心地よさ、機能により直接的に得られる体験を指す。 - エピソード的UX
商品を利用したあとのUX。商品の利用を振り返る体験を指し、そこからリピート利用や友人へのシェアなどにつながる。 - 累積的UX
上記3つのUXを通じて、商品に触れていた期間すべてを振り返って得られる体験を指す。
このように、商品についての情報を得た瞬間から、「ユーザー体験」は始まっていると言えます。
逆に言うと、UXをデザインするということは、商品を使っている最中はもちろんのこと、商品に関連する情報に触れる体験から、商品を使い終わったあとの体験までを設計するということ。
単なる商品開発や広告・Webサイト制作の領域からはかなり広がる感じがしますが、なぜUXデザインが求められるようになったのでしょうか。
UXデザインが求められるようになったワケ
「機能で差別化」が難しくなった
技術の進歩や情報共有手段の多様化により、あらゆる商品が機能で差別化を図ることが難しい時代に突入しました。
今の時代、特別なこだわりのあるものでない限り、だいたいどのメーカーの家電を買っても概ね満足できるし、どの飲食店に行ってもだいたいおいしいですよね。
一般の人が求める水準くらいの技術力やノウハウはどの企業や個人でも得られるようになり、品質も価格帯も均質化してきているんですね。
そんな中で、他の企業や商品と差別化を図るには、「手にするまでのワクワク感」「快適な使い心地」「もたらされるライフスタイルの変化」など、自社商品を通して得られる体験を追求していく必要が生じてきました。
Webの万能化とスマホの普及
スマホ、ひいてはWebでできる範囲が広がったことは、UXデザインが特にWebやアプリ制作の文脈で頻繁に登場するようになった背景にあります。
かつては、「調べ物の道具」にすぎなかったWebですが、今や買い物や動画視聴を楽しんだり、支払いをしたり、友人とコミュニケーションを取ったりと、Webがあらゆる活動の拠点になっています。
スマホが普及してその手軽さもグッと増し、Webの世界はもう「生活の場のひとつ」。
そうなると、当然ながら長い時間を過ごす場所では少しでも快適に過ごしたくなるもの。
Webやアプリの提供者も、激増したユーザーとの接点で「よりユーザーに気に入ってもらえる設計を」という競争になったのは自然の流れと言えるでしょう。
あらゆるプロダクトの「スマート化」
IoT(モノのインターネット化)によるあらゆるプロダクトの「スマート化」も、UXの注目度を高める一因となっています。
スマートウォッチやスマートスピーカーをはじめ、何らかのデバイスと触れている時間が急激に伸びている現代において、サービスの提供者は「いかに自然に自社商品とつながっていてもらえるか」を考えています。
つまり、「商品を利用している最中だけでなく、それ以外の時間にも思い出してもらうこと」であったり、「あって当たり前の存在になること」に注力するようになっているということです。
サブスクというビジネスモデルの増加、SaaSの発展もこの流れに拍車をかけて、ユーザーの体験を設計するという発想がますますビジネスの世界に根付いてくるかもしれません。
UXデザインはチーム全体での取り組みが必要
UXの判断基準
UXを改善することの重要性を理解したところで、「何がいいUXで、何が悪いUXなのか」と問われると、答えるのは難しいですよね。
そこで、UXの良し悪しを判断するひとつの基準となる「UXハニカム構造」というのをご紹介します。
詳しくはまた別の記事でご紹介しますが、簡単に言うと最大の目的である「ユーザーにとって価値がある」というのを目指すにあたっては、「役に立つ」「使いやすい」「探しやすい」「信頼できる」「アクセスしやすい」「魅力的」という要素が満たす必要がある、という考え方です。
UXデザインにはチーム全体の理解が必要
では、「チームづくり」とUXデザインはなぜ密接に関わるのでしょうか。
ひとつには、UXデザインにはチームを横断しての活動が必ず必要になることです。
UXデザイナーひとりでできることには限りがあります。
ユーザーに実際に使ってもらう「ユーザーテスト」や、商品のペルソナ設計などに取り組むだけなら、一人でもできないことはありません。
しかし、それらを活かしてユーザーの満足する体験をつくり上げるには、あらゆるセクションの関係者の理解が必要です。
プロダクトやWebサイトのデザイナーがUXを理解していなければ、ユーザーにとっては「ただなんとなくカッコいいだけ」のものになるかもしれない。
営業担当者が目先の新規顧客だけを追う姿勢でいると、既存ユーザーが不満をもって流出を防げないかもしれない。
販促部門が一般的な広告ノウハウにばかり目を向けていると、本来の商品イメージを損なう広告でユーザーをがっかりさせてしまうかもしれない。
チーム全体で「ユーザーにどんな体験をしてもらうのか」を共有できないと、それぞれのセクションでバラバラの動きをして、結果的にユーザーが心に留めるような体験を提供することはできないのです。
UXへの意識共有がチームをつくる
これを逆に捉えると、UXへの意識を共有が、チーム全体で同じ方向を向くための指針になります。
つまり、デザイナーセクションが「ユーザーにとって操作のわかりやすい商品にしよう」、営業セクションが「アフターフォローを徹底して既存ユーザーの流出を防ごう」、販促セクションが「自社の対応の速さをアピールしよう」とそれぞれで目標を立てると、統一感のない戦略ができてしまいます。
ここに「明日もうちの商品を使いたくなるようなUX」というテーマがあれば、それぞれのセクションごとの目標も自ずとそこに向けたものが設定されるはずです。
UXの意識のないメンバーにUXの概念を理解してもらうのは骨が折れますが、少しずつでもその必要性を伝えたり、小さなところからでも成果を積み重ねて、チーム全体の理解を得ていきましょう。