もくじ
コーチングでは、「Why?」はNG!
コーチングの目的とやり方
まずは、コーチングそのものについて確認しておきましょう。
なんとなくはわかっているつもりでも、「コーチングって何の目的で、どうやってやるの?」と聞かれて答えられる人はあまりいないでしょう。
日本でコーチングの資格を発行している団体のひとつである「コーチ・エィ」のWebサイトでは、コーチングをこう定義づけています。
目標達成に必要な知識、スキル、ツールが何であるかを棚卸しし、それをテーラーメイド(個別対応)で備えさせるプロセスである
〜(中略)〜
コーチは相手に、
・新しい気づきをもたらす
・視点を増やす
・考え方や行動の選択肢を増やす
・目標達成に必要な行動を促進する
ための効果的な対話を作り出します。
ここで重要なのは、コーチがこれらを先導したり強制したりするのではなく、相手が主体性を持ちながらそれを実現するところにあります。
コーチング・エィ・アカデミア https://coachacademia.com/coaching/coaching-base.html
ものすごく簡単に言えば、対話を通して気づきや行動を促すことで、相手の目標達成を手伝う、というのが、コーチングの趣旨となります。
コーチングで「Why?」を使わない理由
相手自身のことを彫りさげて、気づきや新しい視点をもたらすのであれば、その過程において「なぜ?」という問いは自然に出てくるように思えますよね。
それでも、コーチングの世界では「Why」を避けて「4W1H」で話を聞いていくのが一般的になっています。
この理由は、主に2つ挙げられます。
責めているように受け取られてしまう
「なぜこの作業を先にやったの?」
「なんで新規顧客がとれないの?」
このセリフを見て、どういう印象を抱きますが?
あるいは、もしあなたが上司にこう言われたとしたら、どんな受け止め方をするでしょうか。
おそらく、責められているという解釈になりますよね。
仮に、聞いた側は純粋に「作業の優先順位の判断基準を知りたい」「新規顧客がとれない原因について話し合いたい」と思っていたとしても、聞かれた方は思わず「すみません」と謝ってしまいそうになるでしょう。
日本語の文化的な背景もありそうですが、いずれにしてもコーチングでは相手に萎縮させてはならないので、ネガティブな感情を煽りかねない聞き方はNGとなります。
抽象的で答えづらい
「なぜ?」という問いかけの答えは、ほかの4W1Hと違い、抽象的で難しいんです。
「いつ」「どこで」「だれが」「なにを」「どうやって」って、すべて具体的な名刺や行動で答えられますよね。
自分でした行動に対しての質問ならすぐに答えられることが多いと思います。
それに対して理由は、明確でないことも多いですよね。
習慣だったり、とっさに行動することもあるので、聞かれて改めて考えないと出てこない。
あるいは、「どこまで掘り下げるか」も質問の意図などを汲み取って判断しなければいけません。
たとえば「今朝、どうして顔を洗ったの?」と聞かれた場合、「習慣だから」も「顔をきれいにするため」も正しい答えですが、内容はまったく違いますよね。
コーチングを受ける側が答えに詰まってしまったり、答えを導き出したとしても実は本質を突いていなかったりすることもあり、「Why」の質問は避けられるのが一般的なのです。
「Why」を言い換えてみよう
では、「なぜ」を問いたいときはどうするのかというと「言い換え」が基本になります。
2つほど例を挙げて説明しましょう。
「なぜ、多くの時間を割いて一生懸命それに取り組んだのですか?」
↓
「あなたをそこまで強く突き動かしたのは何だったのでしょうか?」
聞いていることは同じですが、印象がまったく変わりますよね。
しかし、前者の場合、「どうしてもやりたくなったから」でも「偶然まとまった時間がとれたから」でも答えは成立してしまいます。
後者なら、「幼い頃の◯◯の経験が、やっぱり忘れられなくて」というような答えが自然に出てきます。
自分の気付きや次の展開につながる回答がどちらかは、一目瞭然ですよね。
「なぜ、目標を達成したときに喜びと感じたのですか?」
↓
「目標を達成して、どんなところに喜びを感じたのですか?」
ひとつめの例と比べると似ているかもしれませんが、やはり質問の具体性はまったく違います。
前者の質問だと「目標を達成したんだから、喜ぶのは当然では?」と思ってしまいませんか?(僕は思います)
後者であれば、「自分が立てた目標をやりきったところかな? 積み上げてきたのが成果に結びついたところかな?」と考えやすくなりますよね。
「なぜ?」という質問は、質問の意図を自ら掘り下げることで、質問自体をより具体的な聞き方に置き換えられるんです。
職場や家庭で考える「Why?」の使い方
部下や後輩とのやりとりで使っている言葉を見直そう
たとえば職場で、顧客に出した成果物に誤植があったとします。
そんなミスが起こったときに、こんなやりとりを見かけませんか?
上司「なんで誤植なんてしたの?」
部下「すみませんでした・・・」
上司「二度とこんなミスしないようにな」
上で述べたとおり、「Why」は責めているような印象を与えてしまいます。
また、部下は当然ながら意図的に忘れたわけではなく、「誤植した理由」を聞かれても答えに窮して、結果、謝罪だけで終わってしまう、というわけです。
上司としても、「なんで・・・」という言葉が出た時点で求めている答えが謝罪になってしまっています。
仮に部下が「これこれこんなことがあった影響で・・・」と答えようものなら「言い訳はいいから謝罪を」と言い出す人さえいますよね。
そうではなくて、会社として必要なのは原因の究明と再発防止。
これを「質問の意図」として、質問の仕方を変える必要があります。
上司「どこで見落としがあったんだろう?」
部下「すみません。普段は最後にチェックをするんですが、他に◯◯と◯◯の仕事もあり忘れてしまって・・・」
上司「なるほど。じゃあ、忙しいときにも忘れないようにするためにできることはあるかな?」
部下「では、納品チェックシートを作って、それを納品前に必ず部で共有するというのはどうでしょうか」
上司「そうだな、次回からそうしよう」
建設的だし、自然に部下の振り返りを促せている感じがしますよね。再発防止策を自発的に考えさせることにもつながりました。
ここまでスムーズにはなかなかいかないかもしれませんが、チームを率いる立場にある人は、「なぜ」の言い換えを意識してみると、部下とのやりとりが改善するかもしれませんよ。
子育てでも「Why」に注意
少し話の趣旨としてはずれますが、子育てにおいても「なぜ」の使い方に気をつけてみましょう。
大人でさえ「責められているように感じる」「抽象的で答えづらい」のだから、子どもにも当然同じことです。
親「なんでお友達を叩いたりしたの?」
子「おもちゃを貸してくれなかったんだもん」
親「なんでそれを口で言わないの?」
子「・・・・・・」
こんなやりとり、よくあると思いますが、なぜ子どもは黙ってしまったのでしょうか?
本人にとって「叩いた理由」は明確でも「口で言わなかった理由」なんて当然意識していないから、問いが難しいんです。
だから、よけいに威圧的に感じてしまうんですね。
親「どんなことが嫌でお友達を叩いたの?」
子「おもちゃを貸してくれなかったから」
親「じゃあ、叩く以外におもちゃを貸してもらう方法は何かあるかな?」
子「順番に使う約束をする」
親「それはいいね。じゃあ、次は約束するようにお願いしてみよう」
職場の例と同じく、子ども自身に自主的に考えてもらって、解決策を模索できていますよね。
子どもと接する場合も、「なぜ?」を使ってもいい場面かどうか、「なぜ?」を使うなら、その問いに対してどんな答えを期待するのか、問いかける前に一度考えてみるといいかもしれませんね。
まとめ
今回の記事では、コーチングにおける「4W1H」の質問の鉄則をもとに、「Why」の使い方について解説しました。
「なぜ?」の問いかけが難しい理由は「責められているように感じやすい」ことと「抽象的で答えづらい」ことでしたね。
もちろん、いついかなる場面も「なぜ?」がダメなわけではありません。
「理由」を聞く必然性が明確で、意図が相手にもきちんと伝わっているなら、問題はないんです。
「ミスを改善するために『なぜ』を5回繰り返そう」と言われますが、あれは自問自答であり、「なぜ」を問う意図が当然明確だからこそ有効なんです。
ただ、そうでない使い方をされるシーンが多い(「なんでミスしたの?」→「言い訳するな」のコンボは典型ですね)ので、気をつけたほうがいい、ということなんですね。
あなたも、普段何気なく使う「なぜ」を、一度見直してみてはいかがでしょうか。
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