過去の記事では、UXと似た用語との使い分けや、UXが重要視されるようになった背景、UXデザインにチームで取り組む意味について解説しました。
講座の第3回となる今回では、具体的にどんなことをするのが「UXデザイン(UX設計)」なのか、その流れについて取り上げていきます。
この記事を読むと・・・
●UXデザインを進めるためのベースとなる考え方がわかる
●UXデザインを実践していくプロセスがわかる
●各プロセスごとに用いられている手法について知れる
もくじ
UXデザインの進め方
UXデザインの軸「人間中心設計」の思想
UXデザインをする上で欠かせないのは、「人間中心設計(HCD|Human Cetered Design)」の考え方です。
これはその名の通り「人間を中心に考えて設計すること」。
つまり、ユーザーが製品やサービスの仕様に合わせるのではなく、ユーザーに合わせた製品・サービスを設計していくという発想です。
世間にあまり情報が出回らず、業界内にいる生産者と消費者の間の情報格差が大きかった頃は生産者主導の時代でした。
しかし、いつでもどこでもあらゆる情報を得られるようになり、一般の消費者でも発信できるようになり、消費者主導の時代が到来しました。
そんな背景から、「人間中心設計(HCD)」が求められるようになったんですね。
UXデザインは、人間中心設計のプロセスに基づいて実践していくのがセオリーとなります。
今回の記事では、WebサイトやWebサービス、アプリなどのUXを見直していくという想定で、具体的な実践内容を見ていきます。
人間中心設計(HCD)のプロセス
STEP1 人間中心設計の必要性の特定
まずは、人間中心設計(UXデザイン)の必要性が生じた背景を再確認し、目指すべき目標を明確化します。
責任者が把握するだけでなく、プロジェクトチームと関係者全体でしっかり共有しておくことが大切。
「ステップ0」とも言えるような基本的な段階ですが、ここで認識のズレやモレがあると、プロジェクトを進める中で齟齬が生じたり、壁にぶつかることも増えるので、手を抜かずにしっかりやっておきたいところです。
STEP2 利用状況の把握と明示
ユーザーの利用状況や市場・競合の状況を調査して、目標に向かっていくにあたっての課題を明確にします。
具体的には、3C分析やSWOT分析などの一般的な分析手法のほか、ユーザーへのアンケート調査、エスノグラフィ調査、専門家にユーザビリティなどを評価してもらうヒューリスティック評価などがあります。
施策の例
【エスノグラフィ調査】
ユーザーが実際にサイトを利用するところを観察して、問題点や課題をあぶり出す調査。
たとえば、「このサイトで●●を購入する」というタスクを設定し、想定ターゲットとなるユーザーに実際に操作してもらいます。
そのうえで、タスクを完遂できたか、効率はどうだったか、その過程で不満はなかったかなどをチェックしていきます。
STEP3 ユーザーと組織の要求事項の明示
ユーザーの行動や課題に基づいて、ユーザーの要求事項を導き出します。
ポイントとなるのは、ユーザーの要求事項は必ずしも意識的・顕在的ではないという点。
ユーザー自身も気づかない、潜在的な要求もあぶり出していくことが大切です。
また、このフェーズでユーザーの姿かたちをくっきりと描き出し、チームで共有できるか否かがこの先のアイディア出しにも大きく影響を及ぼします。
施策の例
【ペルソナ構築】
想定しているユーザーを、ひとりの人間「ペルソナ」として構築していきます。
「30代女性」といった大雑把なセグメントにとどまることなく、また闇雲や当てずっぽうで情報を盛り込んでいくわけでもなく、きちんと客観的なデータに基づいて設定していくことが大切。
たとえばユーザーアンケートの結果や、サイト制作当時の企画書などから情報を集めて、それらを整理して物語風に仕上げていきます。
【カスタマージャーニーマップ】
顧客が企業や商品を認知してから、それらを調べたり、比較・検討して購入したり、仕様後にシェアしたりといった、消費行動とその前後の一連のプロセスを可視化したマップを作成します。
具体的には、
ペルソナの人物がとる「行動」→行動に伴って発生する「思考」→行動の各段階ごとに登場する店や人、Webサイトといった「タッチポイント」→それらのタッチポイントに触れたときのペルソナの「感情」
という流れで挙げていきます。
STEP4 設計による解決策の作成
STEP3で導き出した要求事項を満たすよう、解決策を作成して要件を定義していくフェーズ。
ここで、ようやく制作するWebサイトやアプリが少しずつ形として現れてきますが、まだまだ設計図の状態です。
施策の例
【プロトタイピング】
Webサイトやアプリを実際にプログラミングする前の「プロトタイプ」として何らかの形で作成し、それに対する意見交換や評価を実施して改善点を発見していきます。
プロトタイプの作り方としては、紙に手書きで作る「ペーパプロトタイピング」や、それをデジタルに落とし込んで実際の動きをチェックする「デジタルプロトタイピング」などなどがあります。
重要なポイントとしては、要素を作り込みすぎずにスピーディーに実施することや、できるだけ多くの関係者を巻き込んで評価してもらいつつ、広く合意形成を得ていくことが挙げられます。
STEP5 要求事項に対する設計の評価
実制作を終え、実際に作成したものをユーザーに利用してもらい、評価・フィードバックを得ていきます。
この結果を受けて、STEP2〜4に戻り、軌道修正やテコ入れを行います。
施策の例
【ユーザーテスト】
実際にユーザーが利用しているところを観察して、アンケートを取ります。
STEP2で紹介した「エスノグラフィ評価」と近い調査にあたります。
【A/Bテスト】
Webサイトなどの内容や構成を変えてそれぞれのパターンで一定期間運用し、問い合わせやアクセス数等の結果を比較・検証します。
数字で明確に結果が出るうえに、将来まで活用できるデータとなるのでオススメの方法です。
ただし、検証項目を絞らないと、結局「何が変化の決め手になったのか」が曖昧なまま終わってしまうので注意しましょう。
(例|コピー、掲載順、色味を変えて検証してしまうと、どれが最も数値に影響を及ぼしたのかがわからない)
ユーザーの要求事項を満たしたら
STEP2〜5を繰り返してユーザーの要求を満たすレベルに達したら、ひとまず制作完了となります。
ただし、時代が変わればユーザーが求めるものも変わりますし、また他の切り口からの人間中心設計の見直しが必要になることも考えられます。
良好なUXを維持するためには、定期的なチェックやメンテナンスも必要となるでしょう。
さらに、今回取り上げたのはWebサイトやアプリ制作におけるUXデザインにすぎません。
UXという概念自体、Webに限らず製品やサービスに関わるあらゆる場面で総合的に考えていく必要のあるものです。
ある製品を紹介するWebサイト上でいくらUXを設計しても、その製品全体のブランドイメージが全く別物だったり、購入後の体験が全くデザインされていなければ、Webサイトでの体験も台無しになってしまうかもしれません。
UX設計は、特定のタイミング、特定の箇所だけで実施して終わるのではなく、広範囲にかつ時系列も意識しながら、継続的に取り組むものということです。
今回の記事では、UXデザインの大まかな流れについて解説しました。
次回以降の記事で、改めて各フェーズの活動内容についてもご紹介していきたいと思っています。